ハッピーアワー

六本木で飲むなんていつぶりだろう?
ハッピーアワーの広い店内に客の姿はまばら
スタッフがステージの機材をチェックしている
ガラス製のマグカップに入ったビール
うまくもまずくもない
冷たくもないしぬるくもない


行こうか

もうちょっとここにいる?
わかったよ僕は先に出るね

女給仕を呼んで会計をたのむ
小柄で小太り
長い髪をポニーテールに結っている
やれ
彼女にはどこかで会った気がするな(ずっと後で思い出す)

ビール50円?
ハッピーアワーだから?
いくらなんでも安すぎだ
じゃ
あいつのぶんも払っておくよ

海が近くにある気がする
大きな倉庫を背景に材木が積んであるのが見える
コートの襟を立てた白人
惜しいな
どこかをどうにかすればヴィンセントギャロ

占い?
興味ないね
いや
まったくないってわけじゃないんだんど
こういうのってほら
ボられたり
ハメられたりあるじゃんね
カルト教だったりさ

無理に勧めはしないよ

とギャロが言う

けっこう金もかかるしね

白人の説明はまったく耳に入ってこない
あるいは単に英語を理解できていないのかも知れない
何言ってるかよくわからないんだけど
その話はとても魅力的に感じる


君のことが詳しく記述されたファイルが
郵便ポストに届くってわけさ

知りたくないかい?
君がどこから来てどこへ行くのか
君は何者なのか
そもそもこの世界とは一体何なのか
その答えがすべて封筒の中に入っている

興味深いけどさ
高いんだろ?

1ドル

え?

1ドルだよ

ギャロがまぶしそうな目をして微笑む

朝は5時すぎで
雨音が聴こえる
ベッドを出てトイレに行き
手を洗ってキッチンへ
焼酎を水で割ってゴクゴク飲む

あれ?
雨なんか降っちゃいない
小鳥たちのさえずりが聴こえる


そうだ

あの給仕の女の子は
昔のアルバイト仲間だ
なつかしい
今も現役なんだな

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